イチゴ炭疽病で収穫ゼロに!?発生を未然に防ぐ対策と対処法

イチゴ炭疽病
ポイント
  • 適切な予防対策(排水対策、土壌pH調整、抵抗性品種選定、健全種苗使用、環境管理)が極めて重要
  • 発生時の早期発見と迅速な対処(感染株除去、薬剤散布)が被害拡大を防ぐ鍵
  • 発生原因の分析と経験を活かした再発防止策の立案が不可欠

イチゴ栽培で一番恐れられる病害、それが「炭疽病」です。一たび発生するとイチゴ園が壊滅的打撃を受ける可能性があり、多くの農家の夢を押しつぶしかねません。 しかし、この厄介な病気にも確かな対策はあります。発生リスクを減らす土台作りから、発生時の早期発見と対処、そして将来に向けた再発防止対策まで、本記事では徹底的に解説します。

「イチゴが枯れた…」そんな絶望的な光景に見舞われる前に、この病気の正体と対策をしっかりと把握しておきましょう。発生を未然に防げば被害は最小限に抑えられますし、いざ発生した場合でも的確な対応次第で被害を最小化できる可能性があります。

イチゴ栽培で一番大切なのは、作物を健全に育てること。炭疽病に立ち向かう方法を知れば、イチゴ園を病害から守り、安心して美味しい実を収穫できる喜びを味わえるはずです。

目次

炭疽病とはどんな病気?

炭疽病とはどんな病気?

炭疽病の原因と症状

炭疽病はイチゴ栽培において最も深刻な病害の一つで、細菌Xanthomonas fragariaeによって引き起こされます。この細菌はイチゴ以外にもナシやキウイフルーツなどの植物に感染し、甚大な被害を及ぼすことから、農家は特に注意が必要です。

初期症状は葉に小さな水浸状の病斑ができることから始まります。この病斑は次第に拡大し、葉全体が暗緑色から黒色に変色していきます。症状が進行すると、茎や花穂にも同様の病斑ができ、ついには植物体全体が枯死してしまう恐れがあります。

さらに問題なのが、果実にも病斑ができることです。イチゴの実に現れた黒い病斑は、商品価値を著しく低下させてしまいます。収穫された果実すべてが出荷できなくなる可能性さえあるのです。

イチゴに与える深刻な被害

一旦、炭疽病が発生してしまうと、収量が大幅に減少し、場合によっては収穫ゼロ、つまり全滅に陥る危険性もあります。感染した株は徐々に枯死していくため、翌年の作付けができなくなるだけでなく、イチゴ園の生産力そのものが失われてしまいます。

更に深刻なのが、一度発生した場合、土壌や施設内に細菌が残り、再発のリスクが高くなることです。細菌が土や設備の隙間に残存していれば、次のシーズンに新たな株が感染してしまう可能性が極めて高くなります。

このように、炭疽病は発生してしまうと甚大な被害が予想され、防除が難しいことから、発生すれば深刻な経済的損失を被ることになります。収穫できなかった分の機会損失に加え、除去や消毒、再植付けなど対策費用もかさむため、一度発生すれば莫大なコストが生じかねません。

炭疽病の発生を防ぐために

炭疽病の発生を防ぐために

炭疽病の発生を防ぐためには、事前の予防対策が極めて重要です。発生してしまうと被害が甚大になるため、発生リスクを下げる取り組みが何より大切になります。

土壌環境を整える重要性

適切な排水対策

炭疽病の病原細菌は、過湿な土壌環境下で増殖しやすいため、適切な排水対策が不可欠です。イチゴ圃場では暗渠排水や表面排水を行い、過剰な水分を速やかに排出する必要があります。

また、地形を工夫することも有効な方法です。高い部分や傾斜地に植え付けることで、自然排水が促進されます。一方で、窪地などの低湿地は避けるべきでしょう。

石灰などで土壌のpH値を調整

炭疽病の病原細菌は、中性からやや酸性(pH 5.5~6.5)の土壌を好む傾向にあります。そのため、土壌のpH値を適正範囲に調整することが求められます。

一般的には石灰資材を施用して土壌のpHを上げる方法がとられます。具体的には炭カルや苦土石灰、消石灰などを散布し、pHを6前後に維持するのが理想的です。また、pH測定器を使って定期的にモニタリングし、過度の酸性化や中性化を防ぐ必要があります。

種苗の選び方に注意

抵抗性のある品種を選ぶ

イチゴの品種によって、炭疽病への抵抗性が大きく異なります。抵抗性品種を選ぶことで、発病リスクを大幅に下げられるため、この対策は極めて重要です。

例えば「紅ほっぺ」や「女峰」などの品種は比較的抵抗性が高いとされています。一方、「章姫」や「かおり野」は感受性が高く、発病しやすいと言われています。品種選びの段階で、地域の気候風土や病害発生状況を踏まえた上で、適切な品種を選ぶ必要があります。

健全な種苗を使う

種苗自体に病原細菌が潜んでいる場合、そこから感染が広がるリスクが高まります。そのため、信頼できる優良な種苗生産者から、健全な種苗を購入することが何より大切になります。

生産者については、種苗の衛生管理状況や検査体制などをしっかりと確認し、安全性の高い業者を選ぶ必要があります。また、発注時には必ず適切な防腐処理がされている種苗を指定し、病原体の侵入を未然に防ぐ対策を講じましょう。

発生しやすい環境を避ける

過湿を防ぐ対策

炭疽病の病原細菌は、過湿な多湿環境で増殖しやすいため、過湿を防ぐ対策が非常に重要です。具体的には、適切な間引きと通風を行い、株元の過湿を解消することが求められます。

ハウス栽培の場合は特に注意が必要で、換気や加温に気を配り、結露を防止する必要があります。結露が発生すると、水滴に細菌が繁殖し、病原体が拡散するリスクが高まるためです。

適切な換気と日当たり

換気が悪く、日当たりが不十分な環境でも、炭疽病が発生しやすくなります。そのため、ハウス内の換気を十分に行い、日光が適度に当たるようにする必要があります。

一方、日陰が多い場所は避けるべきでしょう。日光不足は植物の免疫力を低下させ、病原菌の増殖を助長してしまうからです。明るく風通しの良い環境を作ることが、発生リスクを下げる重要なポイントになります。

発生したらすぐに対処を

発生したらすぐに対処を

一旦炭疽病が発生してしまった場合、早期発見と適切な対処が何より重要になります。発見が遅れれば被害が拡大するだけでなく、根治が困難になるためです。

早期発見が重要

典型的な症状に注目

炭疽病の早期発見のポイントは、典型的な症状をいち早く見逃さないことです。最初は葉に小さな水浸状の病斑ができるため、丁寧にこの兆候を確認する必要があります。

さらに進行すると、茎や花穂、そして果実にも同様の病斑が現れます。これらの症状が見られたら、速やかに専門家に相談し、的確な診断を仰ぐべきでしょう。

定期的な病気チェック

しかし、発病初期の症状は肉眼では確認が難しい場合もあります。そのため、定期的な病気チェックを欠かさないことが重要になります。

具体的には、作業時や収穫時に、一株一株を丁寧に観察する習慣をつけましょう。また、農業関係機関や専門家による病害診断を受けることで、早期発見の可能性が高まります。

適切な対処法

感染株の除去

一旦発生が確認されたら、迅速な対処が欠かせません。まずは感染株をすべて除去し、病原体の拡散を食い止める必要があります。

この際、根までしっかりと掘り起こし、根系に残った細菌を取り除くことが大切です。除去した株は、完全に枯死させた上で、適切に処分しましょう。そうでないと細菌が残って再発の原因となります。

薬剤散布

次に、登録された農薬を適切に散布し、病原体の増殖を抑える必要があります。ただし、一つの系統の農薬を連用すると、耐性菌が生まれる恐れがあります。そのため、複数の系統の薬剤を交互に使うことが重要なポイントです。

このように総合的な防除を行うことで、発生初期の段階で被害を最小限に食い止められる可能性が高まります。

次の対策に生かす

発生経路の特定

発生が収束した後は、発生源と経路を徹底的に分析することが求められます。種苗、土壌、用水など、病原体の侵入経路をすべて洗い出す必要があります。

この作業を通じて発生原因が特定できれば、同じ失敗を繰り返さずに済みます。また、綿密な予防対策を立てる上でも、発生経路の解明は極めて重要な手がかりとなります。

再発防止策の立案

発生原因が判明したら、適切な再発防止策を立案し、実行に移します。場合によっては根本的な対策が必要になる可能性もあります。

例えば、土壌が病原体に汚染されていれば、土壌消毒や客土を検討します。施設内に細菌が残存していれば、建て替えや徹底的な消毒が不可欠です。作付体系に問題があれば、品種の置き換えや輪作の導入を検討する必要があるでしょう。

このように、発生時の経験を生かし、毎シーズンごとに見直しと改善を重ねることが、炭疽病を防ぐ上で極めて重要になってくるのです。

イチゴ炭疽病 FAQ

イチゴ炭疽病 FAQ
炭疽病に効く農薬は?

炭疽病に対して登録されている主な農薬は、銅水和剤抗生物質製剤です。

銅水和剤は殺菌効果が高く、発病初期であれば一定の予防と治療効果が期待できます。しかし重症化した場合は、葉や茎の内部まで広がった細菌を完全に殺菌することが難しくなります。

一方の抗生物質製剤は、細菌の増殖を直接抑制する働きがあります。ストレプトマイシンやオキソリン酸などが使用されますが、耐性菌の発生が危惧されるため、銅剤との併用が推奨されています。

発病初期に発見でき、適切なタイミングで農薬を散布できれば、被害を最小限に食い止められる可能性が高まります。しかし一旦重症化してしまうと、農薬の効果は著しく低下してしまうため、早期発見と迅速な対応が何より大切です。

発病したイチゴは食べられる?

病斑のあるイチゴの実は、商品価値が大きく低下するため出荷できません。しかし、炭疽病は植物に感染する細菌が原因なので、人体への影響はありません。

つまり、自家消費であれば、発病したイチゴを食べても健康被害のリスクはほとんどないと考えられています。ただし、病斑の広がりが著しい場合は、品質面で食べづらいかもしれません。

一般的には、発病が軽微な段階で収穫し、病斑部分を切り離すなどの対応をとることで、自家消費できる可能性は高まるでしょう。

炭疽病は人に感染するの?

炭疽病を引き起こすXanthomonas fragariae は、植物にのみ感染する細菌です。つまり、人体に感染して発症することは基本的にありません。

ただし、防除作業時に細菌を吸入した場合は注意が必要です。飛散した細菌を気道に入れてしまうと、一時的に軽い呼吸器系の症状が出る可能性があります。目に入った場合も、炎症を起こすリスクがあるため、防護メガネの着用が推奨されています。

作業時の適切な防護対策を講じることで、人体への感染リスクはかなり低くなります。発症した場合でも、適切な対処で問題なく治癒すると考えられています。

発生しているイチゴ園は手入れできる?

発生園での作業は極力控えるべきです。手入れの際に細菌が飛散したり、作業者の衣服や器具に付着して拡散したりするリスクが高いためです。

止むを得ず発生園で作業する必要がある場合は、以下の対策を徹底する必要があります。

  • 防護服や防護メガネ、マスクの着用
  • 靴の消毒
  • 器具の入念な洗浄と消毒
  • 作業後の手洗い・うがいの徹底
  • 作業区画の隔離

このように、細心の注意を払って感染拡大を防ぐことが重要です。発生園での作業は最小限に留め、次のシーズンに向けた再発防止対策に注力することが賢明でしょう。

感染が収束してから、十分な期間を空けて、再開園する方が安全性は高くなります。この際も、徹底した消毒と環境改善を行う必要があります。

まとめ:イチゴ炭疽病

イチゴ炭疽病

炭疽病は確かに厄介な病害ですが、十分に対策ができる病気でもあります。発生リスクを大きく下げる方法はいくつもあり、発生後の対処法さえ適切であれば、被害を最小限に食い止められるからです。

重要なのは、作物を健全に育てる環境づくりから始めること。土壌の排水・pH管理に気を配り、抵抗性品種と健全な種苗を選ぶことで、予防線を張ることができます。栽培環境の過湿や日陰も避けることで、細菌の増殖リスクを下げられます。

そして発生時には、早期発見と迅速・適切な対処が肝心です。初期症状をいち早く見つけ、感染株の除去と適切な薬剤散布を行えば、被害の拡大を防げる可能性が高まります。収束後は原因を分析し、経験を活かした再発防止策を立案することで、翌シーズンに備えられるのです。

このように、予防から発生対応、再発防止に至るまで、一連の対策を確実に実行することが極めて重要です。炭疽病を恐れるのではなく、知識と具体的な対策さえあれば、立ち向かえる病気なのです。適切な方法を実践すれば、イチゴ栽培を心行くまで堪能できることでしょう。

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